破錫四寸葉皿「葉陰」

破錫について

YABURE-SUZU

「破錫(ヤブレスズ)」は錫板に、ヒビ、割れを施し景色とする、秦世和独自の表現です。
”破壊”ではなく時の経過、永遠と一瞬が織り成す静寂の時間「寂」の情景を演出します。

 

【手法】

破錫のヒビ、割れは、融点近くの錫板に外部圧力を加えて割り、ヒビ入れの裏側は同じ錫で共付けして塞ぎ、水漏れを防いでいます。又、裏側の共付けにより全体の強度不足も補います。強度保持のため、共付けは少し盛り上がったものとなっています。
ヒビや割れはほぼ下絵のデザイン通りに表現できますが、ヒビ入れの途中で偶然のヒビも出させて、より自然な線になるよう調整しヒビの陰影、余白で空間を表現します。

破錫作品は完全な手作業の一点物のため、ヒビや割れの形は全て異なり、同じものはありません。作者の気分と共に、使う錫板にも製作した時期やそれぞれ性質に違いがあるため、同じになるようにはしません。又、破錫は作品ですので、インゴット(塊)の状態から全ての工程を作家が全て行います。破錫は唯一無二の「秦世和の錫作品」です。

 

【破景】

破錫の「線」「形状」の種類です。これらを作品の銘によって、単独や組合せで用い、更にヒビの陰影によって調和し「景色」とします。

「枝流れ」
「松葉」
「幽か」
「通し」
「鱗」
「虫喰い」
「繋ぎ」
「欠け」
「割れ」

 

【ストーリー】

2000.09.14-09.17 破錫での初個展。下方に一本のヒビ。

錫板にヒビが出来るのは、板制作時に石板表面に付着した錫の酸化カスやゴミなどの異物が入っていたり、部分的な高温の結晶状態、固型する時の温度のムラ等によって生じます。通常はその部分を省いて使います。又、長時間の氷点下時によっても錫は劣化し(スズペスト)、部分変色と共にひび割れが生じます。
ヒビは入らない方が、通常使う錫板としては良い板となります。

私は錫作家になる以前の陶芸専攻の学生の頃から、ヒビや割れに趣を感じて作品の表現として制作していましたが、当時は陶器では求める雰囲気に仕上がらず中断していました。錫板制作時や板を曲げた時に表われるヒビを、失敗箇所ではなく表現として意図的に出せないかと思ったのが始まりでした。

試行錯誤の結果、初めの頃はヒビを意図的に一本だけ入れられる程度でした。同時にヒビの裏をふさぐ方法も模索し、錫による共付けの盛り付けも今より相当多く盛っていました。その後、ヒビの枝分かれが可能になり、ヒビ入れの方法を元に「割れ」の技法を思いつき、”破皿”が生まれました。
初めはほぼ完全に下絵のデザイン通りのヒビ入れが可能でしたが、わざとらしさと貧弱さが目立つようになり、途中で入る偶然のヒビも活かし、ヒビにも部分的な表情を持たせるよう「欠け」を加える方法も考案しました。その頃には裏の接合もヒビ断面の半分を共付けしてから盛る方法を思いついたため、盛り付けも格段に小さくなり強度も強いものとなっています。

現在はヒビの種類も多様となり、より細かい情景表現が可能となりましたが、錫は生きた素材であり、その錫に施すヒビもまた生きた線です。更なる進化のために表現の追求と発見に創り続けます。

 

【表現】

破錫を初めて見る方は、ヒビや割れの斬新さやヒビ入れの方法に興味が向く方が大半ですが、ヒビ自体は錫の板製造が出来る方であれば誰でも見てきていますので、ヒビ入れの方法も思いつきます。
当たり前ですが、ヒビ入れが出来ても秦世和の作品の「破錫」にはなりません。ヒビは例えれば墨絵の墨に当たり、「線」です。ヒビの形状と共にその余白、全体の中のヒビや割れの「姿」が、その「姿」が存在することで出来る「空間」「時間」が作品表現となります。

又、「銘」は作品の基となります。私は銘、日本語から作品案を考えることが殆どです。美しい四季に恵まれた日本の風土から、古来より日本人は様々な情感を自然に託し言葉を生み伝えてきました。一つの語句からも状態や時期などを表す多様な語句を生み出しました。意味と共に文字の形と日本語の響きからも「形」が思い浮かび、破錫作品として生み出されます。

 

【作品の種類】

破錫作品は食器と酒器、花器が中心ですが、和小物や板作品、額縁作品なども制作しています。又、ヒビ部分の写真作品も進行中です。

 

【刻印と作品の正面】

作品には、篆刻師 蝉堂・寺田和仁 氏作の「世」の刻印を使わさせて頂いています。 器の正面は、横方向に反転した時に、印が正面に向く方が器正面になるように全品共通しています。

 

【注意事項】

重曹、又は重曹の入った洗浄液を使用するのはお避け下さい。細かなヒビの間に重曹の微粒子が入ると完全に取ることは不可能で、何度洗い落としてもヒビの周りにシミとなって浮き出してきます。

※破錫の表現は作品のみになります。オーダーメイドや作品を基にしたアレンジのご依頼はお断りしています。