錫器の磨き直し

s800-_sdi3693酸化変色をした錫器の磨き直しです。錫器は使用による小傷や経年変色による古色は味として、錫器の魅力を引き立てますが、場合によっては光沢のある地金の状態の方が好ましい時もあります。今回のお屠蘇一式もそうでしょう。年始の行事に使いたいものですので、輝いている方が気分も高揚します。

【磨き方工程】

手作業のみでの磨き方です。錫の鏡面磨きは金属の中でも特に難しく熟練の技を要します。バフ研磨と組み合わせれば、もっと楽です。
今回のご依頼は展示品などではなく一般家庭でのご使用ですので、錫を盛り付けて修正するような直しまではしない範囲で磨き直しを行います。多少の使用感は味になりますので、神経質には気にする必要も無いと思います。
尚、当工房では、状態にもよりますが、磨き直しは出荷状態に戻るわけではありません。光沢が元に近い状態に戻る程度です。又、形状によっては専用の当て具が必要になる凹みの修復につきましても対応出来ない場合がございます。

【検証】

s800-dscf5131依頼引受時の状態。 製造から50~60年ぐらい経過していると思われます。

s800-dscf5140歪みもあります。

s800-dscf5167歪んでいる箇所を修正し、磨き作業に入ります。

◆特に目立つ箇所を挙げます。

s800-dscf5196盃同士を直接重ね合わせて、手で包み込むようにして持ち運んだと思われます。表面と高台の底部分が擦れ、深い傷となっています。盃の直接の重ね合わせは錫には不向きです。又、荒いスポンジで洗った傷跡もあります。

s800-dscf5197汚れがこびり付き、普通の洗浄では落ちなくなっています。汚れが少し中にまで喰い込んでいました。

s800-dscf5199荒いスポンジで洗った為に傷として残っています。又、ぶつけた際に生じた深い引っかき傷もあります。

【確認のための磨き】

s800-dscf5208一度、軽く酸化変色を金属磨き材(ピカール)で磨き、傷を再確認します。酸化変色により目立たなかった小傷もよく見えてきます。

s800-dscf5211s800-dscf5214

【修正・磨き】

s800-dscf5249先ず、外側の洗浄では落ちないこびり付いた汚れをキサゲで剥ぎ落とします。

s800-dscf5215内側のこびり付いた汚れはキサゲでは取れないので、小型のリューターで削ります。その後、深目の傷をヘラで潰します。

s800-dscf5254s800-dscf5240状態にもよりますが、今回は800番ぐらいの耐水ペーパーから全体を磨いていきます。1500番ぐらいまで段階的に磨きます。ペーパーに付着する錫で傷を付けないよう注意します。当工房では行いませんが、職人さんによっては、この後に炭研ぎをします。

s800-dscf5260その後、表面を擦り続けると出てくる酸化皮膜で更に研磨します。職人さんによっては、貝粉を使用する場合もあります。

s800-dscf5338銀用みがきクロスで磨きます。当工房では行いませんが、この後、更にバフ研磨で磨き上げます。

s800-dscf5265仕上げに、金属磨き材「ピカール」で磨きます。

s800-dscf5274場合により、ピカールで荒い時は銀器用の磨き剤で更に磨きます。

s800-dscf5277研磨剤をよく拭き取り、中性洗剤と柔らかいスポンジで洗い、水滴を充分に拭き取って終了です。
盃などは、スポンジではなく泡立てた洗剤を指腹で撫でるように洗うだけで結構です。傷が付きやすい箇所です。

【完成】

s800-_sdi3666s800-_sdi3704s800-_sdi3679盃を重ねた末広がりの飾り付けには、盃の間に柔らかい和紙などを挟んで下さい。直接重ね合わせると、荒い高台の底面と盃の鏡面とが接触することで、簡単に再び傷が付いてしまいます。