錫について

【錫の性質】

錫インゴット(錫99.9%、通称3N)

錫インゴット(錫99.9%、通称3N)

錫(スズ)は、銀色で、元素記号Sn、融点231℃、比重7.30(鉄と同じくらい)、熱伝導度0.154(鉄と同じくらい)の無毒性単一金属です。 非常に軟らかく、水に錆びず、表面は長い年月の経過と共に酸化変色をし、その古色はより一層趣を増します。

錫は耐蝕性に優れ、またイオン効果が高く、古来より花器は花持ちが良く、酒器は酒の味がまろやかになると云われています。(厳密には、若干酒の味も変化します。)
現在でも皇室では、錫製の酒器(徳利など)に日本酒を注ぎ少し寝かせてからお飲みになっているそうです。熱伝導率が高く保温性も優れているため、早く燗がつき冷酒も涼やかに引き立ちます。

長い年月を経て酸化変色した錫製茶壷

又、年月の経過と共に変わる酸化変色による古色はより錫の質感を高め、使い込むほどにを増していきます。

  • 毒性は無い。
  • 融点が低く、製品は直火では使用できない。
  • 水に錆びない。水を軟質化させる効能がある。
  • 酸化変色は比較的遅い。

【錫合金】

  •  ピューター… 錫、アンチモン、ビスマスなど。別名ブリタニアメタル。
  • 青銅(ブロンズ)… 銅、錫7%前後。
  • 砂張(さはり)… 銅、錫22%。
  • ガンメタ… 銅88%、錫10%、亜鉛2%。
  • ハンダ… 鉛と錫。(鉛フリーのハンダもあり)

【その他の使用】

  • ブリキ… 錫をめっきした鋼板。缶詰、玩具。
  • 安価なアクセサリー類… 錫、鉛、アンチモン。

【錫の歴史】

日本では、奈良時代後期に栄西禅師により、茶と共に茶宝(茶壷)として持ち込まれたのが最初の錫器とされています。合金(青銅=銅と錫)の原料とし ては更に昔から使われていました。
錫器は主に茶器や御神酒徳利といった一部の階級での使用品でしたが、江戸時代にはチロリ、徳利など庶民の生活にも馴染み深い器となりました。

世界では、紀元前1500年頃、エジプトの遺跡から出土した「巡礼者の壷」というのが、世界で一番古い錫器と言われています。
ピューター工芸の歴史は、 ローマ帝国占領下のイギリスで始まり、1348年までには、ロンドンは世界最大のピューター生産地となりました。

【錫師と伝統工芸】

錫器を作る職人は「錫師」と呼ばれ、主に関西を中心に活躍しました。錫器の代表的なものには、御神酒徳利、チロリ(酒器)、茶入れ(煎茶道)、茶托があります。錫器の古いものは、正倉院に「錫薬壷」など二、三点が納められています。
伝統工芸の錫器は、型に流し込む「鋳込み」と、丸型の型に鋳込み、表面をロクロとカンナを使って削り出し成形する「ロクロ挽き」が主流で、よって、錫器は型物と丸物が多くを占めます。

【スズ鳴き】

錫板、錫棒を曲げると「シャリッ」「カリッ」と音をたてることを「鳴く」といいます。 結晶構造が変化することにより起こります。

【錫色】

日本古来の色で鼠色系。

【五金】

錫は五金(錫[鉛]、銅、金、銀、鉄)の一つで、五行(木、火、土、金、水)の中の「木」となります。 木: 東、春、朝、仁、青、青龍、魂 など

錫製御屠蘇一式

関西地方では、御神酒徳利やお屠蘇一式も錫製である場合があります。皇室使用からの流れからと思われますが、これは水との相性の良さや保存性の高さだけでなく、錫器は「東(=日の出)」と「春(=始まり)」を表す事が、事始めの縁起の良さや神を祀る事に意味合いがあるのかと想像が膨らみます。因みに、この錫屠蘇一式は、銚子(剣)・盃(鏡)・酒(玉)の「三種」に見立てることも出来ると思います。

【錫丈(シャクジョウ)】

鳴杖、智杖ともいいます。頭部が音の出る仕組みになっており、このシャクシャク(錫々)という音から名付けられた可能性もあるそうです。錫鳴きも由来の一つにあると思います。
金属部分は銅、鉄等で造られています。